ゴミ山

しがない一次創作者の設定の吐き溜め。微エログロ含みます。特殊性別、奇形など。

無題

ミランダは天才ね」
それがいつも私に向けられる言葉だった。自分で言うのも何だけれど、私は昔から勉強は得意だったし、運動も得意だったし、要領がよかった。幼心ながら、私は周りの皆より優れているんだと悟っていた。友達は皆、私を凄いって言ってくれたし、先生は偉いって褒めてくれたし、お父さんとお母さんは頑張ったねって褒めてくれた。子供の頃の私は、皆にちやほやされて、持て囃されるのがただ嬉しかった。だから頑張った。頑張れば、皆が褒めてくれるのが当たり前だったから。
何より姉さんが褒めてくれるのが嬉しかった。
ミランダはいつも頑張ってて、凄いなあ。自慢の妹だよ」
大好きな姉さんにそう褒められて、私は鼻が高かったし、もっと頑張ろうと思った。
だから気付かなかったのだ、姉さんがどれだけ苦しんでいたか。

異変に気付き始めたのは、小学校に入り始めた頃だ。お父さんもお母さんも、姉さんを褒めなくなった。いや、褒めていないわけじゃなかったけれど、私と明らかに態度が違っていた。私のことは「凄いね」とか「よく頑張ったね」とか、そう褒めてくれるのに、姉さんはどれだけ頑張っても褒められなかった。確かに、姉さんは人より凄いとは言えなかったかもしれないけど、姉さんは頑張っていた。それは私が何より知っている。なのにどうして、姉さんのことは頑張ったねって、褒めてあげないんだろう。私はただ首を傾げた。

そして少し後の話、私たちは別々に帰った。いつもは一緒に帰っていたけれど、私は友達に誘われたし、姉さんはテストの結果が良かったからお母さんに早く見せたいって、そう言っていたから私は姉さんより遅れて帰った。
「ただいま!」
ミランダ、おかえり。テストどうだった?」
「うん、全部満点だったよ」
「本当に?よく頑張ったわね、ミランダ」
そう私を褒めたお母さん越しに、俯いて立ち尽くす姉さんがいた。姉さんはどうしたんだろう、テストを見せたはずなのに。すると姉さんは俯いたまま、足取り重く部屋に戻っていった。
姉さんはベットの上で膝を抱えていて、見せたはずのテストは、ぐしゃぐしゃになってゴミ箱の中だった。
私はとっさに声をかけようとしたけれど、結局何も言えずじまいだった。どんな言葉をかければいいか、分からなかったから。私は部屋から逃げた。痛いほどの沈黙が、私を責めているような気がしたから。

「…姉さん、一緒に帰ろう?」
次の日の放課後、私は姉さんに声を掛けた。気まずかったけれど、何かを伝えたかった。けど姉さんから返事はなくて、黙って一人で歩いていってしまった。姉さんの1歩は大きい。まるで置いていかれる気がして、私は小走りになってひたすらに追いかけた。
「ねぇ、姉さん、待って、待ってよ」
ふと、姉さんの足が止まった。やっと聞いてくれた、そう思った。
「…もう、私に付き纏うのはやめてくれ」
私の足も、止まった。
「…ミランダはずるい。ミランダばっかりお父さんとお母さんに愛されて、ずるい。私だって頑張ってるのに、お父さんとお母さんは私のことを見てくれない」
「ね、姉さん、そんなこと、」
「違う、違う!ミランダの、ミランダのせいだ。ミランダがいるから、私のことは誰も見てくれないんだ。ミランダなんて、嫌いだ!」
ガツンと、頭を殴られて、ようやく現実に目が覚めた気がした。不思議だった、今までずっと姉さんと一緒にいて、姉さんのことは何でも知ってるつもりだった。なのに、姉さんがこんなふうに泣いてる姿を初めて見た気がした。そして姉さんは、走り去っていってしまった。
私を置いて
私は姉さんに置いていかれた
姉さんは私のことが嫌いだ
姉さんは、
姉さん

それからどうやって私が家に帰ったのか、覚えていない。ただ、本当に、私は最低だと思った。姉さんの苦しみも知らず、一人でのうのうと生きて、愛されて。私は馬鹿だ、大馬鹿だ。姉さんのことを何でも知ってるつもりで、何も知らなかった。私のせいで姉さんは苦しんだ、私の。私は一人ベッドの中で、声を押し殺して泣いた。姉さんはいつもこんな気持ちだったんだ、そう気付いて、心が痛くて、悲しくて、私は。

「ごめん、ミランダ。昨日は酷いことを言って」
姉さんが謝ってきた。昨日の気まずさが、嘘みたいに。
「…ううん、私こそごめんね。姉さんがそんなに苦しんでいたなんて、私気付かなくて…本当にごめんね」
「いいんだ、ミランダ。ミランダが褒められたら私も嬉しい、だからもっと、これからも頑張ってくれ」
うん、私、頑張るよ、姉さんのために。私の全ては姉さんに捧げよう、私は姉さんのためだけに頑張ろう、私は姉さんを守るために何でもしよう。
これは今まで馬鹿に生きてきた私がしなくちゃいけないことだ。今まで私が与えられてきた愛よりももっとたくさんの愛を、姉さんに。例え私が死んでも構わない。
だって姉さんは私の大好きな姉さんなんだから。