ゴミ山

しがない一次創作者の設定の吐き溜め。微エログロ含みます。特殊性別、奇形など。

語り継がれた英雄譚 12話

「ねえ、レイ。どこへ行くの?」
エルドラドの首都、ヴァルゲンの街を2人の少年少女が行く。休日だからであろうか、大通りは行き交う人々の熱気で満たされ、露店が所狭しと並び、活気と華やかさに溢れていた。
「お前の魔装飾具を買うんだ。…この間の魔法基礎の授業の後でアトリアさんに言われなかったのか?」
中心街を離れて、通りを右に。熱気は冷めていったものの、大通りとはまた違う、落ち着いた生活感のある賑やかさが漂っていた。
「あ…そういえば言われていたっけ。すっかり忘れてた」
「全く…アトリアさんの言った通りだ。声を掛けてやってよかった」
「あはは…ごめん」
申し訳なさそうに、眉を下げて情けなく笑う。その笑顔を見て、やれやれとレイは一つ溜息をついた。

時は遡ること、一昨日の狩人学校での魔法基礎の授業の時の事である。魔法基礎教諭は、レミィの家主でもあるアトリアが務めていた。その授業が終わったあと、アトリアはこっそりレミィを呼び出していた。
「ねえ、レミィちゃん」
「何ですか?アトリアさん」
さも不思議そうに、青い硝子玉のような大きな目をきょとりとさせて首を傾げる。アトリアは言い淀むように視線を彷徨わせ、観念したように肩をすくめると口を開いた。
「あのね、レミィちゃんには魔装飾具をつけて欲しいの」
「魔装飾具っていうと…魔力を高めたり、魔法を防いだりするための、魔力が込められた装飾品のこと、でしたっけ?でも、なんでおれが?」
「ええと…はっきり言うとね、レミィちゃんは魔力量が少なすぎるの。こんなに少ないのは、私も初めて見たわ」
「魔力量が少ないと、だめなんですか?おれ、どうせ専攻は武術にするつもりだし…」
どう説明するべきか、思索して紫の瞳が宙を泳ぐ。ええと、と言い詰まったような声を何度か上げて、漸く考えがまとまったようにまた視線がぶつかった。
「まず、魔力が少ないと必然的に使える魔法も限られてくるわ。レミィちゃんの魔力量じゃ、初級魔法が数回使える程度なのよ。もう一つ重要なのは、体内の魔力量が少ないと魔法への耐久も落ちてしまうことよ。魔物の大半はその攻撃の多くに魔力が込められているわ。そしてそれは『魔王』であっても同じこと…つまりね、レミィちゃんは圧倒的に不利なのよ。魔法攻撃をされたら、レミィちゃんはすぐに倒れてしまうわ」
「えっ、そ、そんな…じゃあおれ、魔物に勝てないんですか…」
「…今のまま、だったら狩人にはなれないわ。だから魔装飾具をつけて、魔力量の増加と耐性を上げて欲しいの。これは他でもない、レミィちゃん自身のためなのよ」
するとアトリアは、スカートのポケットから蝋封のされた手紙と、手書きで記された小さな地図と、華美な装飾のされた布製の袋を取り出した。袋の中ではチャリ、と金属の擦れる音がして、中に硬貨が入っていることが簡単に推測できる。
「ヴァルゲンに、私たちもよく利用する魔装飾具専門店<人魚の涙>というお店があるわ。この手紙を渡せば、私の知り合いだと分かって、きっと色々と教えてくれるはずよ」
「ヴァルゲンの…<人魚の涙>…」
2枚の紙と袋を受け取ると、レミィは地図をじっと見つめ睨み合いをした。
「休日が不定だからなんとも言えないけれど…多分今週はお店はやっていると思うわ。だからできるだけ早く、<人魚の涙>に行ってね」
まるで戦いなど知らぬような、白いなめらかな手がレミィの頭をさらりとなでる。
「約束よ、レミィちゃん」