ゴミ山

しがない一次創作者の設定の吐き溜め。微エログロ含みます。特殊性別、奇形など。

語り継がれた英雄譚 11話

レミィがエルドラド王に謁見したその日から、少しずつではあったものの、少女は変わっていった。いや、元に戻ったという方が正しいだろうか。村の子どもにも会うようになり、長く行くことのなかった学校にも行くようになった。病的に白く、細かったあえかな身体はみるみるうちに健全さを取り戻し、あの闇を何も知らないような眩しい笑顔を見せるようになった。
ただ、少女を取り巻く環境は変わっていった。「また、いつ魔王に襲われるかわからないから」とアトリアが心配し、事情を説明した一部の人間や、アトリア自身によって常に監視されるようになったのだ。常に誰かの視線が付き纏うことは檻の中の動物のような気分だった。肌の上を藪蚊が歩きまわっているような不快さがあった。ただ、それがアトリアの優しさによるものだと知っていたからこそ、突き放すでもなく諦観していた。食べたくもない甘いケーキを呑み下すような、生あたたかい優しさでもあった。そうして一年、やがて二年と月日は流れていった。
「おれ、狩人になりたいんだ。お父さんやお母さんみたいな。そんな凄い狩人に」
やがて子どもは、芽吹く若葉の如くゆっくりと、確実に成長していく。


「…以下、73名。国立狩人育成学校への入学を許可する」
空は澄んだ浅瀬の青、肌寒さのまだ残る、冬の朝のようなきっぱりとした春の日のことだった。「狩人」を志す青く若い芽たちが此処「国立狩人育成学校」への門を叩いた。魔物の蔓延るこの世界では、狩人とは立派な国職だ。ここで狩人のあらゆる術と知識を学び、卒業して初めてその印を押され、正式に狩人を名乗ることが出来る。少女、レミィ・アレスもその一人だ。だが、誰にとっても初めての環境というのは借りられた猫のように落ち着かないものである。新緑の匂う風が心を通り抜けていったような、慣れない環境と新しい出会いへの不安と憂いを澱ませていた。
「おれ、レナード・オーウェン!お前の名前は?」
誰もがよそよそしい空気を肺に入れて沈まる中、それらを意にも介さないような声で話しかけてくる一人の少年がいた。金管楽器のようによく通る快活な声で、直射日光をそのまま浴びさせるような勢いの口調、朝を告げる鶏の鳴き声のようでもあった。
「おれの名前はレミィ・アレス。えっと、これからよろしく」
「おう!よろしくな、レミィ!」
これがレミィにとって狩人学校での初めての出会いであり、初めての友人だった。明るく元気のいい二人はよく気が合うのだろうか、すぐに打ち解けた。身体を動かして遊ぶのが好きであったり、勉強が苦手であったり、共通点はさらに二人の仲を強めた。一日、一週間、一ヶ月とするうちに、初めは近寄り難かった同級生たちの距離もみるみる近付いた。春先の杞憂も消え、友人たちとの生活を楽しみながらも、レミィは自分があの「英雄」であるという事実を告げることはしなかった。こんなに仲のいい友人たちに嘘をついているのだと、後ろめたさがささくれのように心を蝕み続けていた。