ゴミ山

しがない一次創作者の設定の吐き溜め。微エログロ含みます。特殊性別、奇形など。

語り継がれた英雄譚 1話

  クレの村は、エルドラド国南東部に位置し、白い石レンガと赤い屋根の家が立ち並ぶ小さな村だ。周りを〈豊かなる緑の平原〉に囲まれ、春には小さな色とりどりの花が草原を彩り、夏には青々と茂る草木の緑が輝く。秋には小麦畑の黄金色の海が風になびき、冬には広大な、一面に白銀のキャンバスが広がる。

  朝、日が昇り始めると人々は皆起き出し、どこからともなく朝食の焼いたパンや、珈琲の芳ばしい香りが漂ってくる。朝食を終えると、男たちは畑や、牧場へ働きに出かけ、女たちは井戸に水を汲みに行っては明日の天気とか、夫の愚痴とか、村の噂話に花を咲かせている。アウルム曜日で学校が休みの子供たちは、手早く食事を終え、我先にと遊びに出かけて行く。

  少女レミィ・アレスは、そんな日常の中でおおらかに、のびのびと成長してきた。体を動かして遊ぶのが好きで、少年たちに混ざって川で魚を獲り、木登りをし、草原を駆け回っていた。直向きで明るく、快活な子供であった。

  レミィはいつものように朝食を済ませ、「いってきます」と告げると足早に家を出た。いつもと違うのは、向かう場所がいつも少年たちと遊ぶ場所ではなく、村はずれの森だったことだ。村の大人たちは、村はずれの森には魔物が出るから近づいてはいけないよ、と子供に言い聞かせている。だが好奇心には勝てず、子供らは大人たちの目を盗んで森へ遊びにいくこともしばしばであった。何度も森へ入ったレミィは、小さく力の弱い魔物しか出ないことを知っていた。森を目指し、通りを左へ曲がると、前から1人の少年が歩いてきた。同じ年齢の少年に比べるとすらりと背が高く、整った顔立ちはどことなく知的さを感じさせる。「レイ!」とレミィが呼びかけ近づくと、少年──レイ・カーティスも気づいていたようで、「おう」とだけ返し、レミィに尋ねた。

「こんなに朝早くから、どこへ行くんだ?いつも遊んでる場所は逆方向だろ」

「あのね、村はずれの森へ行こうと思って」

レイはまたか、とでも言うように顔をしかめた。

「あそこには入るなと、言われているだろう。大人たちにまた怒られるぞ」

「大丈夫だよ、あそこには弱い魔物しかいないから。それにもし襲われても、おれがやっつけてやる!」

得意げに拳を握るレミィを見て、レイは深くため息をついた。そして、相変わらず顔はしかめたまま、レミィに話しかけた。

「どうせ行くなと言っても行くんだろう。不安だから、俺もついていく。だから先に俺の用事に付き合え。…母さんから、市場で卵を買って来るように言われているんだ」

少女はわかった、と笑顔で返事をした。小さな影が2つ、並んで市場へと向かっていった。