ゴミ山

しがない一次創作者の設定の吐き溜め。微エログロ含みます。特殊性別、奇形など。

語り継がれた英雄譚 2話

市場での買い物を終えた二人は、あたりに大人たちがいないことを確認すると、足早に村はずれの森へと向かった。

森の中に入ると、やはり人気は感じられない。村の賑やかさとは対称的に、とても静かである。時折聞こえるのは鳥のさえずりや、木々のざわめきくらいのものだ。

「そういえば、お前は村はずれの森に何の用があったんだ?」

レイはふと思い出したように、レミィに尋ねた。

「今日、お母さんの誕生日なんだ。だから、花をあげようと思って。ほら、森の中に生えてるでしょ、あの真っ赤な花」

お母さんは赤が好きだから、と喜ぶ母の姿を想像してか、口元が緩んでいる。レイはようやく合点がいった、というように「そうか」とだけ返した。森に入って数分、陰鬱とした森の中で、真っ赤な花はすぐに見つかった。花を数本手折ると、レミィは満足そうに口角を上げた。するとレイが「…それ、ちょっと貸してみろ」と声を掛けた。不思議に思いながらも、花の束をレイに預ける。「Grass Manipulare」と唱えると、手折られた花からみるみるうちに茎が伸び始め、やがてそれは花の束に巻き付いていき、最後に小さな蝶結びとなって止まった。

「えっ…なにそれ、すごい!どうやったの?ねぇねぇ!」

「魔法だ。最近教えて貰ったやつだけど…ちゃんと上手くできてよかった」

レイは、未知の事柄を知ることに対して貧欲であった。その知識欲の矛先が向かったのが魔法だったのである。世界を形作る自然の摂理や理、公式…それらを知り、己の知識として蓄え、自らの手で『奇跡』を起こすことが楽しくて仕方がないようだった。また、レイは聡明な子どもだった。生まれつき魔法の才能があるようで、その才能を早くも見抜いた師によって、本格的に弟子として魔法を教えて貰っていたのである。

「そのまま持って帰るより、まとめた方がいいだろう。魔法の練習もしたかったからな」

「うん、ありがとう!」

そう言うとレミィは、まるで太陽のように笑った。


二人が森を出ると、入る前の晴れた空がまるで嘘のように灰色に覆われていた。雲は厚く、低い空で風が唸る。村の方も、もう昼だというのにとても静かだ。なんとなく、ではあったが『何かがあった』とレミィとレイは感じ取った。心中を一縷の不安が頬を過ぎる。悪い予感がした。

「雨が、降りそうだな」

ぽつりと、レイは呟いた。