ゴミ山

しがない一次創作者の設定の吐き溜め。微エログロ含みます。特殊性別、奇形など。

語り継がれた英雄譚 7話

その日からというもの、レミィは部屋に引きこもるようになった。以前のように村の少年たちに混ざって遊びに行くこともなくなり、健康そのものであった小麦色の肌もみるみるうちに白くなっていった。食事の量もめっきり少なくなり、顔を合わせる度に痩せこけていっているようにも感じられた。

クレの村人には事の顛末が「魔王」と「英雄」に関する情報を掻い摘んで伝えられた。心配した村の大人たちや、同世代の子供は何度もレミィに面会を求めたが、結局そのどれにもレミィが応じることはなかった。

「レミィちゃんはまだ、誰にも会えないそうです。彼女が自分から誰かに会いたいと言えるようになるほど元気になるまで、もう少し待ってあげてください」

アトリアがそう言い続けて、一年が経とうとしていた。


部屋に響く、ドアをノックする乾いた音。「レミィ、入るぞ」少し間を置いて、木製の扉特有の引き摺るような重い音と共に、一人の赤い髪の少年と、その後に続いて金の髪を一つに束ねた女性が部屋に入ってきた。レミィが唯一部屋に入る事を認めている2人、レイとアトリアである。

レミィにとって父と母…唯一の肉親を失ってしまったことは、余りにも大きな疵だった。その幼い心は無残にも砕け、虚のような大きな穴があいてしまった。その不完全なままの心の唯一の拠り所が、兄のように慕うレイと、あの日母の温もりを感じたアトリアだったのだ。

「おい、レミィ…また、殆ど飯を食べていないのか?食べないと、元気になれないぞ」

殆ど手の付けられていない食事を見て、レイは悲しそうな顔でレミィに話しかけた。しかし、少女は相変わらず俯き翳りのある顔を横に数回降るだけであった。アトリアはベッドの傍に膝をつくと、ベッドの上に身体を据えたままのレミィに目線を合わせた。

「あのね、レミィちゃん」

寄り添うように優しく話しかけながら、その顔は確かに傷付いたような痛ましい顔だった。恐らくこれから話す内容がアトリアにとって、レミィにとって、良くないことであることを暗示していた。アトリアは一呼吸置き、決心したようにその閉ざされた口を開いた

「ヴァルゲンへ行きましょう」

「…どうして?」

「王様に、会いに行くのよ」

その言葉の重さだけが、厚く暗いどろどろとした雲のように彼らの心に覆いかぶさった。