ゴミ山

しがない一次創作者の設定の吐き溜め。微エログロ含みます。特殊性別、奇形など。

語り継がれた英雄譚 8話

「レミィちゃん。私が髪を梳いてあげるわ。こっちの椅子に座ってくれるかしら」

アトリアはレミィを備え付けの椅子に座らせると、その寝癖のついた青い髪を優しく梳いた。一年前から1度も鋏を入れていない、無造作に伸びた髪。昔とは違うことばかりが目に入ってしまって、アトリアは軽く首を横に振った。そして寝癖を丁寧に直してやると、あの頃の面影を求めるようにレミィの髪を緩く二つに結った。

髪を結った後、レミィはクローゼットを開け真新しい上着に袖を通した。この一年、少女は部屋の中でほとんど寝間着で生活していた。そのせいだろうか、その服はとても新しいものの匂いがして、ほんの少し窮屈に感じられた。

一通り支度を終えたレミィがホールに向かうと、既にアトリアとレイはホールで待っていた。2人の元まで行くと、レミィは顔を伏せたままレイに声を掛けた。

「…ねぇ、レイ」

「何だ」

「あの…王様に、会いに行くの。レイも、着いてきてくれる?」

不安げな、どこか怯えを含んだような声で頼まれ、レイは承諾を求めるようにアトリアに目線をやった。

「ええ、構わないと思うわ。それに、今のレミィちゃんには、レイ君が隣にいて欲しいもの」

「…ありがとうございます」

「2人とも、準備はいい?じゃあ、行くわよ」アトリアが尋ねると、一気に3人はアトリアの転移魔法でヴァルゲンに飛んだ。


到着したのは王城の門前だった。レミィは地上を焼き付くさんとす太陽の光と、生々しい外の空気に思わず目が眩んだ。どこか懐かしくもあり、しかし強い光は暗く影を落とした。アトリアはレミィの小さな手を握ると「行きましょう」と声を掛けた。レミィは軽く握り返すと後ろ髪を引かれる思いで、鉛のように重い足を少しずつ進めた。

使用人の後を付いて行き、城の中を歩くレミィが抱いた印象は、まず豪勢であるということだ。地方貴族であるアトリアの屋敷も充分レミィには豪華に見えたのだが…やはり王の城ともなると格が違った。大理石の床、石の壁、釣り下がるシャンデリア、至るところに飾られた絵画や彫刻。しかし決していい意味ではなく、レミィはまるで自分が異質なもののようだと、荘厳な空気の中で居心地の悪さを覚えた。

広い城の中を歩き回り、やがて3人は1つの扉の前に着く。他の扉より重厚で絢爛な彫りが加えられており、鈍色の甲冑を纏い槍を構えた騎士がその前に構えていた。

「以前より王に謁見を求められていたアトリア・ハーバードです。…件の少女を連れてきました。」

アトリアがそう声をかけると、兜越しに少しくぐもった声で「入れ」とだけ応え、低く唸るような音を立てながら扉を開いた。

「失礼致します、王よ。この度は、件の少女を連れ謁見に参りました。」

中には円卓と色鮮やかなビロードを身体に巻いた12人の宰相。そしてその最奥の席には、この国の頂点にしてレミィをここへ呼んだ張本人、エルドラド王その人が座っていた。