ゴミ山

しがない一次創作者の設定の吐き溜め。微エログロ含みます。特殊性別、奇形など。

語り継がれた英雄譚 9話

「よく来てくれました。さぁ、そこの椅子に腰掛けてください」

海の底を覗き込んだような、深く美しい紺碧のビロードを身にまとった男―宰相の1人、天秤宮のリブラがレミィたちに声をかける。円卓から少し離れて並べられた3つの椅子に、レミィを真ん中に、レイとアトリアが両脇に腰掛ける。赤い布張りの木製の椅子は、やはり高級なものであることが分かる。厳粛な、独特の雰囲気のせいだろうか、レミィはいい位置を探して何度も椅子に座り直すように落ち着かない。まるで身体中を、重々しい空気の圧で押さえつけられているようだった。

「件の少女というのは、その者で間違いないのだな?アトリア・ハーバード」

ここにきて、王は初めて口を開いた。凛とした、芯のある声が部屋中に響く。力強い声は、どこか威圧されているような気がしてレミィは思わず身体を縮こませた。アトリアは苦痛の表情で、嫌な事と向き合うように、吐き出すように言葉を発した。

「…はい、この子が、レミィ・アレス。今世の…………英雄、です」

レミィは、突然頬を叩かれたようにはっとした。そして同時に、夜の海に投げ出されたかのような感覚を覚えた。

英雄とは、世界の光。

魔王とは、世界の闇。

魔王は、必ず現れるだろう。世界を闇に覆う為に。

その度に、英雄は魔王に立ち向かう。そして勝利し、世界に光をもたらすだろう。

この国の国民なら、誰もが知っている史実。そして、レミィは英雄である。すなわち、またあの男と、魔王と対峙しなければいけないのだ。 少女はまるで心臓が止まってしまったかのような、心がすっと冷えていく気がした。

「レミィ・アレスよ。クレの村にて、再び現れた魔王と対峙し、退けたというのは真だな」

レミィはただ、俯いたまま何も語ろうとはしない。まるで、その全てを拒否するかのように。

「王よ、相手はまだこんなに小さな幼子だ。もっと言い方というものがあるだろう」

少女の様子を見て、炎のように揺らぐ真赤なビロードを身につけた男、白羊宮のアリエスがエルドラドを軽く窘めた。だが、それもレミィの耳には入っていないようだった。少女は消え入りそうに、絞り出すように呟いた。