ゴミ山

しがない一次創作者の設定の吐き溜め。微エログロ含みます。特殊性別、奇形など。

語り継がれた英雄譚 4話

「………は」

ばきり、骨の砕ける音がした。次の瞬間、今まさにレミィの頭を握り潰さんとした腕が鈍い音を立てて地に叩きつけられた。魔王は落ちた腕に目をやり、次にレミィを凝視した。そして目を細め、憎々しげに「…あぁ、お前か」と呟いた。静かに、それでいて苦虫を噛み潰したような不快そうな表情でレミィに話しかけた。

「…久しぶりだな。100年ぶりに見る、最も忌むべき顔だ。今回は随分と、虚弱そうな見た目になったものだ」

その声に反応するように、俯いていた顔を上げた。その時アトリアは見た。青玉のように、目も覚めるような鮮やかな青色の瞳が、激しい憎悪を溶かし込んだような真赤な、赤く血走った瞳に変わっていることを。

レミィは体を捻って右半身を引くと、そこから力任せに拳を突き出した。突き出された拳が魔王の掌に収まると、水面を打ったような高い音が響いてそこから大気が震えた。そのまま数秒膠着状態が続き、やがて両者は後ろに飛び退いた。少女は獣のような前屈姿勢を取ると、すぐさま大地を蹴って1直線に魔王の元へ走り出した。ナイフを振りかざすように、鋭い蹴りが空間を裂いた。避けられて、また攻撃を繰り返して、避ける。

目の前で繰り広げられている、人を域を超えた戦いに、誰もが息を呑んだ。だが終わりは、存外簡単に訪れた。

「!」

天は少女を見限った。土砂降りの雨でぬかるんだ地面で足を滑らせたのだ。その一瞬の隙を見逃す筈がなかった。

「ッレミィ!!」

頼りないほどに小さく細い身体を、鋭い爪の生えた腕が貫いた。レイの悲痛な叫び声だけが、尾を引いて響いた。